場所と物語

『日常の巡礼』発行によせて

2018年3月22日、NPO場所と物語・初のブックレット『日常の巡礼』を発行した。
「東京ステイ」プロジェクトで実験してきた都市の歩き方「ピルグリム」はいまだワーク・イン・プログレスだけれど、私たちの中に少しずつ溜まってきた経験と、生まれてきた言葉を一度かたちにしてみようと思った。

 

編集チームでもピルグリムをやってみた

今回この本をつくるにあたり、NPO外部から編集者さんとイラストレーターさんに入ってもらった。そこで、編集チーム全員で実際に半日かけてピルグリムを行った(>>『六郷土手・河原町団地・越境』)。みんなで一緒に歩いたこと、それぞれが体験を通じて「ピルグリム」というものを飲み込み、咀嚼していたことが、短期間で一気に本をつくり上げていくうえで助けになった。

編集者の安藤嵩史さんには全体の編集だけでなく、十牛図のテキストも書いていただいた。はじめに十牛図という物語の型をNPO場所と物語の視点で解釈するとどう読み解けるか、という文章を私が書き、それを読んだ上で、まったく別の10のエッセイを書き下ろしてくださった。個人的にかなりぐっと来ているので、ぜひ読んでいただきたい。

また言葉だけではなくて、「十牛図」というイメージに落とし込んだところもポイントだ。イラストは、場所と物語のメインビジュアルも描いてもらった寺本愛さんにお願いした。私たち自身、十牛図についての解釈を深める過程と並行しての依頼になってしまい、「生きている牛を描くイメージが湧かない」とずいぶん悩ませてしまったけれど、安東さんのテキストと相まって場所と物語らしく仕上げていただいたと思う。

 

巡礼の道中で生まれた言葉と写真

十牛図には、私たちがピルグリムを通じてアップしたInstagramの写真と、手紙からの引用も添えられている。引用文を選ぶために、これまでに書かれたすべての手紙を読み返し、印象的なフレーズを十牛図になぞえらえてピックアップした。

表紙のタイポグラフィ(箔押し!)を含め、アートディレクションはNPOメンバーの小田雄太くん。この冊子は、ピルグリムでまちを歩く時に持ち歩くことを想定して手帳(野帳)サイズで制作した。まずピルグリムとは何か、どんな考え方で私たちが歩いているかを理解していただく助けとして。そして歩き終わったあとの、振り返りを支援するツールとして。2018年度からのピルグリムで、NPOメンバーのみならず、新たにピルグリムに参加する人たちとも使っていくつもりだ。

 

了解力と巻き込まれ力

巻頭と巻末には、そもそもピルグリムとは何か、なぜやっているのか、そして私たちがピルグリムを通じて鍛えたいと思っている身体性―「了解力と巻き込まれ力」について、拙文を寄せている。文字通りまだ拙くて、実践を通じて言葉はどんどん更新されていくだろう。一年後には全然違うことを言っているかもしれないが、こちらもぜひ読んでいただきたい。

NPO法人 場所と物語『日常の巡礼』
編集: 安東嵩史(TISSUE Inc.)/ アートディレクション: 小田雄太(COMPOUND inc.)/ イラストレーション: 寺本愛 / 文章: 石神夏希、安東嵩史 / 事務局: 河野慎平 / プログラム・オフィサー: 嘉原妙、大内伸輔(アーツカウンシル東京)
発行: アーツカウンシル東京(公益財団法人東京都歴史文化財団)