場所と物語

九つの仏さまの足元で逆上がり/下田寛典

渓谷があると聞いた。「奥沢だっけ!?なら奥沢にしよう!」と思い奥沢に決めた。道連れが九品仏に用事があるというから、じゃあ、九品仏から奥沢に向かうピルグリムにしようとなった。

九品仏に到着して気付いた。「渓谷があるのは等々力だった!」何かの思い違いで着いてしまった九品仏で今日が始まった。

九品仏は地名ではない。駅を出ると浄真寺という寺があって、そこに納められている9つの仏様から「九品仏」と呼ばれているようだ。

お寺につながる参道は隣の住宅地との境目がなく、参道の脇に小さな公園があった。

すべり台とブランコと鉄棒のあるごくごく普通の公園だった。今日のピルグリムを共にする「道連れ」は子ども連れ。近くで買ったパンを食べつつ、子どもが遊ぶ後姿を眺めながら、しばし公園に佇んだ。ベンチの正面に鉄棒があったのも手伝って小学校の頃の鉄棒を思い出した。

今日、うちの息子は朝家を出るまでピルグリムに来る予定だった。けれど学校の帰り、友だちと遊ぶ約束を入れてきてドタキャンされてしまった。私も少し残念だった。

だから余計に鉄棒を思ってしまった。というのも、うちの息子は昨年逆上がりできるようになったのに、今年の正月にはできなくなっていたからだ。


▲昨年の正月。逆上がりができるようになったうちの息子のガッツポーズ

少し自信をなくしたのかもしれない彼は、私が誘っても、あんまり鉄棒をやりたがらなくなった。

浄真寺にある九つの仏さまの足元で、来るはずだった息子の逆上がりのことを思いながら、アンコ入りのコッペパンをかじった。また逆上がりできるようになる日が来ることを願いながら。