場所と物語

青臭さとブラックホールのピルグリム/Mayoko Nii

1週間前、劇作家の石神夏希さんから「一緒にピルグリムしてくれませんか?」というメールをもらった。

当日しっかりと防寒をして、昔友達にもらったイヤリング(片耳は壊れてしまった)を右耳につけて、待ち合わせの新逗子駅に向かった。

石神さんに会うのは、2回目。
1回目は、京都の舞鶴で石神さんの作品を観た後の、打ち上げの場だった。
その時は二言三言しか話さなかったので、今日はほぼ初対面のようなもの。

挨拶もそこそこに、お互いが1冊ずつ持参した本を見せ合う。


石神さんが持ってきてくれた本は「桜の園 /三人姉妹」(チェーホフ)。
実は「桜の園」を、昨年末に劇場で観たばかりだったので、この偶然に気分が上がる。
しかも、私も石神さんも三人姉妹だということが発覚。
何より、ここ数年の私にとって「3」は特別な数字。

「引き寄せますね」と、興奮もつかの間。

会って30分もしないうちに、なんだか異様なほど、お互いの思考や価値観をストレートに語り合っていた。
だって、あまりに共通項が多くて。
「自分を見つめる、ってさ」「言葉ってさ」「家族ってさ」
やっぱ、考えるよね……という話など。

朝起きぬけのウイスキーストレートみたいな、唐突な滑り出し。

12:00になり、ピルグリムの事務局から「司令」が届く。
「今いる場所から空を眺め、写真に撮れ」とのこと。
うーん、別に今、空撮りたくないな。曇ってるし。

とか思いながら、近くの可愛らしいレストランに移動してランチ。
石神さんも私のことを早く理解したいはず、と思って、引き続き自分のことをどんどん話してしまうし、質問してしまう。
こんな距離の縮め方って、少し強引な気がしなくもないけど、今日は大丈夫そうな気がした。

「人と居ても、実際は自分といるって感じがするとき、あるよね」
とか話しながら、本当に私たちがミラーみたいな光景。

すると何の因果か(?)、石神さんが「今朝、10年くらいずっと薬指につけていた指輪を外してきたの」と言うから、なんかもう、二人の出会いが運命的に思えて、面白おかしくさえ感じる。
でも、生きていたらどこかの一日で指輪は外すわけで、別に今日が特別なんじゃなくて、今日はただの今日なんだろうけど。

指輪が、石神さんを守ったり、石神さんのかたちを作ったりしていたのかもしれない、とか。
だったら指輪を外した今は、自分のバリアみたいなものがとけて、世界と繋がれるね、とか。
自分の世界を守ることも、世界とつながることも、どっちも大切だね、とか。
そんな話。

こんな会話もあった。
私「精油の香りって、無意識のうちに脳に直接働きかけてしまうの」
石神さん「言葉って、意味を理解する前に傷ついちゃうことあるよね」

書くとあまりピンとこないけど、私たちの会話、すべてが重なったり繋がったりしているみたいな感覚が、ずっとしていた。

それから、石神さんに「何になりたい?」と聞いたら「地蔵か座敷童」というから、絶対に嘘だと思った(笑)。
やっぱ、太陽でしょ(笑)。

逗子で3時間も過ごしてしまって、急いで京急線に乗る。
その前に、亀ヶ岡八幡宮でお参り&おみくじ。
チャーム付きのおみくじで、猫ちゃんチャームはおそろいになった。
私が吉、石神さん大吉!
「こういう結果は、二人で足して半分こだよ」みたいなこと言うから、可愛いなと思った。

電車に乗って、またおしゃべり。途中で事務局から「司令」が再度届き、電車の中でスケッチしたりと、色々、意外と忙しい。
それでも飽きずにあれもこれもと話していたら、乗り換えをしくじった。あるあるである。

 

「みんなとの集合時間に間に合わないね!」と言いながらも、青物横丁駅で途中下車。
渋く美しい喫茶店に入り、美味しいホットサンド、アイリッシュコーヒー、チーズケーキ、コーヒーをそれぞれ食しながら、今日の課題である「誰かへの手紙」を書く。

この手紙はその「誰か」へ実際に送るわけでないから、結局は自分、もしくはこれを読む石神さんに書くようなもの。
しかも石神さんは私のことをもっと知りたいだろうから、やっぱり内省的な内容がいいよね?と、またも自分をさらけ出してしまう。

そこで宛先の「誰か」は、他界している友人にした。
結構いい感じに馬鹿正直に書けそうだったのだけれど、書いている途中で実は、この手紙が最後にピルグリムメンバーに回し読み(笑)されることを知り、焦る。

「他界した友への手紙なんて、湿っぽいかなあ」と心配になり、末尾に「今度はA子の移住したアメリカで会おうね!」みたいなわざとらしい一文を添えて、お茶を濁した。

 

ところで、私はずっと「人とどうこうより、まずは自分自信と仲良くなろうね」と考える傾向にあったのだけれど(子供の頃に読んだオリーブの特集と、20代ではまった園子温の映画の影響です)、今日は「そろそろそこ、脱出ね」という風に、ちょっと思った。

もしかしたら昨今の時代「絆」や「仲間」という意識が重視されていたけど、最近になって「まずは自分でしょ」みたいなスタンスも再浮上(?)してきているのかもしれない。
そこで天邪鬼な私はこのタイミングで、「いや、そうは言いますが、自分だけってバランス悪くないですか?」「ていうか、自分なんて所詮、自分でしょ」と言いたくなった模様。

人間一人一人の内側は、限りなき「宇宙」だけれど、自分という人間の外側は「ブラックホール」なんだろうなあ。
そしてその「ブラックホール」へのアクセスは、実はたった一人の人間だったり、出来事だったり、するのだろう。

それから石神さんと青物横丁のOKストアでラーメンを買って(このラーメンは後ほど、ピルグリムメンバーとすべての種類をごった煮にしておいしく食べた)、ゴールの渋谷へと向かう。

最後の「司令」。
今日一日、お互いがどう見えていたか。
石神さんは私を「fragile(繊細)」と言った。
いきなり英語(笑)。
でも、宝石みたいでとても綺麗な言葉。嬉しかった。

逞しくても繊細な人がいるし、
明るくても落ち込みやすい人がいる。
それは私。

「逞しい=頑丈」と思っている人が結構多いような気がしていて、
最近勝手に悲しく思ったり、傷ついたりしていた。
fragile言ってくれて、さらに「色で例えると薄桃かピンク」と言ってもらって、
私のこころは儚い粉雪のように、桜の花びらのように軽やかに舞った。単純。

今日はピルグリムしながら街を開拓するはずだったのに、初めてお話しする石神さんに夢中で、街になんて全然お構い無しだった。
あえて言うなら、渋谷のマークシティを歩いているとき、渋谷区出身の自分は、ここを「懐かしい場所」と思うことが「ホーム感」なのか「いまやアウェー感」なのか、理解できずに不思議な感覚だった。
2つの感覚の間を揺れることは嫌いじゃない。
よいセンチメンタルだった。