場所と物語

雪と炬燵とタコ焼きと/今田素子

-古民家カフェに置かれていた映らないアナログテレビ。

 

谷中っていうところは不思議な街だ。そもそも時の流れが違う。駅を降りて少し街の中に進んで行くと、すっかり遠くの街に来たような錯覚に陥った。

予定していたカフェに向かう途中、古民家の軒先でお兄さんが古い家具を拭いている。何をしているのかと尋ねると、これからカフェを開く準備をしているのだという。

 

「今日は3時からタコ焼きを焼くからよかったら寄ってください」

 

まだ整っていない店内に寒々しさも感じ、まあ、ここに戻ってくることはないかもな。と思いながら適当に愛想を言ってその場を立ち去った。

 

-古民家カフェ準備中。家具も作っている途中。

 

しかし、数時間かけて、予定した散策を終えたところでそう言えば。と、先ほどの古民家カフェに立ち寄ってみることにした。その頃にはすっかり谷中にも慣れてきて、なんとなく最初来た時のよそ者感もなくなっていたのかも知れない。

 

店を覗くと、さっきは軒先に置かれていた、お兄さんが自分で塗ったという炬燵台が居心地よく店の畳敷の小上がりに鎮座している。まるで寒くて凍えそうだった私たちに、どうぞ入って行きなさい。と言っているかのようだ。炬燵のせいか、お店の寒々しさも消えている。

 

-先ほどは軒先に置かれていた炬燵台を囲む。

 

いそいそと炬燵にもぐりこみ、日本酒を頼むことにする。ずいぶんと気の利いた酒のつまみをいくつか出してもらい、お店の女将さんが石川からわざわざ買ってきたという吉田蔵を振舞ってもらった。

 

-吉田蔵  純米大吟醸  麹米:山田錦

 

ガラスの入った木枠の引き戸越しにちらちらと舞い始めた初雪を見ながらすこぶる美味しい日本酒をいただく。至極の時間。あゝやっぱり雪国っていいな。

 

ってここは谷中だよっ!

 

とても東京にいるとは思えない。そんな不思議な谷中タイム。

 

-映らないはずのアナログテレビに映る、タコ焼きの準備を手伝う私。テクノロジーの進化すごい。