場所と物語

福生から、帰りの電車の中で。/馬場正尊

訳あって福生に来ている。

この街には初めて訪れるはずだけど、なぜか来たことがある気がする。

待ち合わせまでに少し時間があったから、改札前のコーヒーショップに入った。巨大な外国人が3人、狭い店内で異様な存在感を示している。その横のカウンターに高齢者が数人、並列して座っている。知り合いではないらしい。ただぼんやりコーヒーを飲んでいる。外国人とのコントラストで、彼らはとても小さく見える。そのすぐ後ろでは、大きな声の茶髪の中学生の女の子がバイト先の先輩の文句を言っている。不思議な混在。あまり見たことのない組み合わせ。

コンコースを降りて駅前のロータリーに出ると、ココイチのメニュー看板が英語表記だった。ここが米軍基地の街だということを物語っている。駅前の通りはかつて赤線で、やってるかどうかわからない店も派手なネオンサインで飾られ、華やかな時代の名残を残している。今でも週末になると米軍兵で賑わっているらしい。1970年代前半にはベトナムの戦地に飛び立つ前夜の兵士たちが、もしかすると最後になるかもしれない夜の歓楽街を味わいにやってきた通りだ。だからだろうか、ネオンが派手であればなるほど、どこかしら寂寥感を感じてしまう。

その通りの中でも特に目を引くド派手なラーメン屋にカメラを向け、シャッターを押した瞬間に中から、またしても迫力の洋服とメイクの女性が出てきた。

「何してるの」と言われ、怒られるとたじろいでいると、なぜこの店のシャッターにこんな絵が描かれているかという背景を、マシンガントークで話し始めてくれた。

「中に入っていきなさいよ」

誘いというより命令に近い一言で、僕らは開店前のお店の中におずおずと入っていく。

中はこんな感じ。

ポロ春というお店の名前は札幌ラーメンのポロと、親の名前の春の組み合わせだということ。山梨から出てきて偶然この店に入ったら、マスターが一人でかわいそうで手伝ったら、そのまま48年経ってしまったこと。ボクシングやK1の世界チャンピオンが常連で、自分もボクシングを始めたこと。46歳でマラソンを、60歳でドラムを始めたことなどが継ぎ早に語られた。彼女はこの店にいながら、ベトナム戦争を、日米関係の変化を、郊外の栄枯盛衰を、見続けてきた。半世紀の間、彼女はほとんどこの場所から離れていないが、語られる物語はまるで世界を旅しているような冒険に溢れたものだった。

動かなくても旅はできる。

留まることも、それは時に旅である。

そんなことを感じた福生のショートステイ。