場所と物語

アーティストというヤドカリ/林千晶

鬼子母神堂につながる参道。二階建ての木造住宅が連なり、小さな商店街を形作っている。一軒の軒先に、センスのいい和食器が並んでいる。思わず入口を開けて中を覗き込んだ。「こんにちは〜」。

昭和の雰囲気が漂う一軒家。玄関にあがると、畳の部屋が広がり、奥の台所では、子供がおばあちゃんと一緒に遊んでいる。靴を脱ぎ、畳の部屋に上がって、売物を眺める。漆を使った雑貨、金沢で買い付けてきた和食器や、共同運営している中国人作家が作った磁器などが並んでいる。どれも、シンプルながらセンスの良さが光っていた。

友人と一緒に、地元オーナーから借りて、作品や販売したり、他の作家に貸し出したりしているそうだ。

鬼子母神前の由緒ある土地。地主は自分で使うわけではない。でも売ったり、再開発を簡単にできる場所でもないにだろう。使いたい人に貸して、商店街の活気を維持するという選択肢がある。それは地元だけにしばられず、外部のエネルギーを穏やかに吸収するひとつの手段なのかもしれない。