場所と物語

[レポート] ダイアログ・オンサイトVol.1 「東京の記憶と断面」トーク前編

2019年1月9日に行われた東京ステイ「ダイアログ・オンサイト」の 第二部では、NPO法人場所と物語のメンバーの神本豊秋さん(再生建築研究所)を聞き手に、林厚見さん(株式会社スピーク、東京R不動産)と林千晶さん(株式会社ロフトワーク)が、第一部のピルグリムを振り返りながら、「場所と物語」という活動を通じて考えている都市のあり方、過去の記憶と現在の風景、これからのまちについて、語りました。

(取材・執筆:大間知賢哉、写真:黒羽政士

会場は表参道駅から徒歩3分、築60年の違法建築群が複合施設として生まれ変わった「ミナガワビレッジ」。しっとりと淡い灯りが照らす庭の築山に臨む共用フリースペースで、3人のトークが始まりました。

まずは、半分以上を建て替えながらもその場所の記憶を残す空間の企画設計から入居運営も行う神本さんから、ミナガワビレッジの概要・コンセプト・魅力について。

神本 : このミナガワビレッジという建物を通じて、都市の中に贅沢に余白を作っていくことで、場所の価値は上がっていくんじゃないかと。コンクリートの4F建ての建物を作ることも出来たんですけれども、設計者として、また運営管理を行う入居者として、10年間に渡って敷地全体の更新を続けながら、投資回収できる仕組みをつくったっていうところが、ひとつ僕らが考えている建築のあり方、場所のあり方、さらには歴史を残す、文化を残す、っていうところにつながっているのかな。

2018年に生まれ変わり、再スタートを切ったミナガワビレッジ。餅つき大会や食事会などが催され、そこに、かつてこの場所に住んでいた人、遊びに来ていた人たち、場所の記憶を持っている人が「またここに通うから。」と再び出入りするようになったことが面白いと話します。時間を上書きするのではなく、どう積層させていくのか、0に戻すのではなくて、古いものも受けいれながら、再生していくのか。神本さんの今後のまちづくりへの想い、使命感を強く感じました。

 

NPO誕生のきっかけは表参道

NPO法人場所と物語が生まれるきっかけは表参道での出来事だったと林千晶さんが回想するところから、トークは始まりました。

ブランドショップや話題性のあるお店が立ち並ぶ表参道。そこから一歩裏にある、昭和からの団地が残っている通りへ入っていった時に、ある建物の窓から、パン教室を開いてる女性に話しかけられた千晶さん。

千晶 : おばちゃんと目が合って、「寄ってきなさい。」って声かけられて、「はい。」って言って上がったら、手作りパンを作ってるパン教室で、「美味しいパンが焼けたから、食べなさい。」って。

そのパンを買って食べた時、おしゃれな表参道というイメージが先立つ場所でも、「表参道がファッショナブルになる前から、私はここでパンをずっと作って、教えてましたけどなにか?」みたいな感じが、ものすごい違和感でおもしろかった。

「渋谷に人がいっぱい」、「きれいなブランドショップがたくさんある」ということばかりではなく、一歩裏の通りには、長年暮らしている人たちの営みがあり、そんな人たちが生きてきた東京がある、ということ。それらを提示できてこそ、訪れた人たちに東京のおもしろさを伝えたことになるのでは?という問いが出てきて、「場所の物語を受け止められること」その必要を感じたと話します。この体験がまちと出会い直す「ピルグリム」というプログラムにつながったようです。

 

まちを巡礼する、どう歩く?

「ピルグリム」をすると、全く違う時代、異なった概念と価値観のもとに生まれた建物・生活・意思とが、目まぐるしいくらいにまちのブロックごとに見て取れる、その感じが面白いと話す千晶さん。

千晶 : 文化が成熟し続けるとか、かっこよくなりつづけるとかってないって思ってて、ゴージャスになり過ぎたら、ゴージャスじゃない方がかっこいいじゃん、って。みんなが貧乏になったら、かっこつけようぜってなる、行き過ぎたら戻そう、戻り過ぎたら進もう、みたいな、振り子みたいなもの。私のピルグリムのおもしろさは、巻き戻すも、進めるも、どこに、今私たちが持っていない価値観があるのかなぁ、っていうのが好きで見ちゃいます。

一方で、まちを歩いている人の物語や背景に想いを向けて、ピルグリムをしたという林厚見さん。

厚見:僕はね、フィジカルに見えてるものによってまちの場所性を読み解くみたいことをやっちゃうと普段の仕事のやり方になってきちゃうから。今日はどちらかというと、人の妄想、そっちに寄せたい感じはあった。そっち側に視点を写してみると面白いなって思って。隙間を見たり、解像度を変えて見たりするよりも、人のレイヤーにもっていくことで、僕にとってのピルグリム性が上がるかなって。

 

「あっちに行くとチャイナ」

「ピルグリム」は、あらかじめ10個の指令が設けられていて、その中から参加者は任意で、選び、実行します。

3人が選んだ指令は「知らない人に話しかけて、教えてもらった場所に行ってみる」。

声をかけた相手は身なりも雰囲気も洗練された、いわゆる“表参道がよく似合う”女性。「この辺でおすすめのところがあったら教えてくれませんか?」と尋ねると、「え?あ、え、えっーと、中華料理屋さん、チャイナが真っ直ぐ行くと、キラー通りのとこにあります。」という返答。これに対して、登壇者3人、三者三様思ったことが違ったとのこと。

神本 : 15時頃ですよ、普通、カフェとかないかなって受け取られると思うんですけど、いい中華料理があるだったんですよね。

千晶 : 私がシュミレーションしたのは、ものすごい中華料理が好きな子なのかなぁって。

厚見:キラー通りのチャイナっていうと、おしゃれ女子、いわゆる自然ハワイ系コミュニティの人だったらラッキーっていう店だよね、みたい共通認識があるんです。あの人は、いわゆるビオワイン、ヴァン・ナチュール系。とすると、このキラー通り周辺でおすすめの店をスキャンした時に、彼女のマップの中には、2つか3つぐらいしか思い浮かばないはずなんですよ。

だけど、全然違う兄ちゃんとかだったら、キャットストリート側に目線がいって、古着屋を選ぶ可能性もあるよねっていう。そういう風に(人によって)マップが違う。

神本:ほんとびっくりした。ただ、「今忙しいから、ちょっと今はわからないです。」みたいなリアクションなのかと思ってました。

厚見:街を風景としてとらえるよりも、同じ風景の中で、全然違うマップを持っている人たちの分析をするのがおもしろい。そうするとそれが重なってマーケットっていうのができて、街っていうものが形成されていく。この系とこの系とこの系のニーズとかマッピングが重なって街が作られている、っていうところの分析が僕のひとつの趣味だから、人の嗜好性研究は欠かさない!

千晶:デート・散歩してる時にも、通りがかった人に、おすすめを聴くっていうのはありで、そうすると自分の普段の道とは違うところに、いきなり物語が始まるから、その辺はすごくおもしろかったし、こういう人と一緒に行くと、分析がものすごい豊かでおもしろい!

 

目を閉じて、「私」の物語に出会う

続いて林厚見さんのピルグリム体験談。目を閉じて、ステイする=佇むことで、眼前の都市の風景を眺めることとは違って、個人の記憶に触れる、認識を深めることになったといいます。

行った指令は、 「並んで3分間目を閉じてみる。座っても、立ってても寝ててもかまわない」。

神本僕風邪っぽくって、瞑想中の大事な時に、15回くらい咳込んじゃって。千晶さんが「風邪大丈夫?」って。「やべぇ、あぁ~みんな集中できてなかったんだ。」って思ってたら、厚見さんが「え?咳してたの?」って。

厚見ジャズでもないなぁ~、ちょっといい感じの音が流れてて、コーヒーカップ?のカチャカチャって音が聞えてるっていう環境が結構よくって。で、目を閉じて、その神本くんの咳とかは見事に消え去ってくれて。全然わからなかった!

厚見このカフェの喧騒っていうのは、そういや、今までいろんな場所に、いろんな都市に行った世界中の、どこでもあった音なんだって、最初に思った。イタリアだろうが、ニューヨークだろうが、モロッコだろうが、イスタンブールだろうが、この音、この環境っぽいってのはあったと思って、5秒ずつくらい、最近行ったホーチミンから台湾とかを通って行って、それでだんだん楽しくなってきて、最後がなぜかディズニーランドで働いてる人が出てきて終わった。

神本毎回ピルグリム苦手と言いながら、なんだかんだで一番楽しんでいるのは厚見さん ()

厚見実はだんだん好きになってきてる(笑)。要するにね、問題解決は好きですよ、目的に迫るっていうのは好きだし、解決も好きだけど、そこから離れようっていう石神夏希さんの投げかけから僕は離れられなくなっているんですよ。つまり、脱コスパの世界に行かなきゃって思ってるのに、行き切れていないんじゃないかって不安に生きているので。

千晶それが、一番いいピルグリムな気がしていて、つまり、「さぁ、普段と違う私になるわ」っていう、100%ピルグリム大好き!ってやるようなことはたぶん、ほんとの意味での日常の巡礼にはならないし、だからといって、こういう指令があるときにそれを何にもやらなくてもダメな、こんなことって意味あるのかなって、どこかほんとかなぁって思いながらもやってみる、そういうもののせめぎ合いなんだよね、いつも。

>>>後編へつづく